友達のままではいられない



ぼんやりと光って過ぎ去っていくテールランプが綺麗でぼーっと眺めながら歩いていると

「おっと……」

ぐらりと身体が揺れた。危うく車道に飛び出しそうになった身体を捕まえるようにお腹に硬い腕が回りぐいと歩道側に連れ戻される。

「……ふらふらと車道側に行かない」
「はーい」
「はぁ、全く。タクシーではなく歩いて帰りたいと我儘を言ったのは名前さんですからね。無理ならすぐにでもタクシーに押し込みますが」
「やだ、歩く」

間髪入れずにそう答えるとフーッと溜息をこぼし、お腹に回っていた手がするりと解けた。そして、ぎゅっと右手を繋がれる。怒っているのか強い力が込められている。そこに恋人同士のような甘ったるさはなく、ただ私がフラフラとどこかに行かないように拘束しているみたいだった。

「もっと優しくしてよー」
「優しくされるような行動をお願いします」
「手厳しいなぁ」
「酔っ払った名前さんの我儘を毎回律儀に聞いている私は充分優しいと思いますが」
「はいはい。そうだねぇー。優しいよ。七海は優しー!世界一!!自慢の友達だよ!」
「……友達、ですか」
「ん?」

ざりっと小石と靴底が擦れる音がして、七海の足が止まる。どうしたの?と見上げるといつもより3割増しで感情の読み取れない瞳があった。

「私は一度も名前さんの事を友達だと思ったことはありませんが」

その一瞬、辺りの喧騒は止み。その言葉だけがクリアに耳に届いた。

「……泣いてもいい?」
「何か勘違いされてるようですが」
「あ、親友とか?」
「人の話を聞いてください」

一瞬、何か深刻な話をされるんじゃないかと握られたままになっている指先が強張った。けれど、そういう感じでもなさそうだなとゆるゆると緊張が解けていく。

「私は嫌いな人とは食事をしたくありません」
「うん。じゃあ一応、嫌われてはいないってことね」
「毎回毎回、酔っ払った人間を甲斐甲斐しく介抱してやるような優しい人間でもありません」
「んー?」

毎回、面倒を見てもらってる気がするけど?甲斐甲斐しくは……ないか。そういう事?七海の意図が見えない。そうでなくてもアルコールでぼんやりしてるんですよ私は!と軽く開き直ってみる。

「酔っ払いにも分かるように言って」
「これだけ言ってもまだ分かりませんか」
「うん。分かんない。頭、働かない」
「名前さんと一緒に食事に行って、毎回酔っ払った名前さんを家まで送り届けるのは友情からではなく愛情からです」
「…………」
「いい加減分かってください」

愛情、愛情って何だっけ……と少し繰り返し呟いてみると、段々と言葉の意味が身体中に浸透していった。愛情、そうか愛情か。

「……酔ってる時に言うのズルくない?明日になったら忘れちゃってるかもよ?」
「別にいいですよ忘れても」
「え?やっぱり揶揄われてんの私?」
「いえ、本気です」
「じゃあ」
「名前さんが忘れるなら何度も伝えるまでです。でも酔って記憶を無くすタイプじゃないですよねアナタ」
「分かんない。酔っ払ってるから分かんない」
「……そうですね。酔ってる時に言うのはフェアじゃありませんでした」
「うん」
「後日、改めて申し込みます」

何だかとても色気のない言い方に吹き出すとじろりと睨まれてしまった。ぐいっと寄った眉間の皺が凄い。

「そんな顔してー。私の事、好きなくせにー」
「えぇ。好きですよ。とても」
「ねぇ、七海」
「はい」
「酔ってる?」
「知っているでしょう。私が酒に強い事」
「うん。でも不確定要素は潰しておかないと」
「好きですよ。名前さんのそういう所」

私も、と口から零れそうになった言葉はその後日とやらに取っておこうと唇を軽く噛んで浮かれた気持ちを誤魔化すように鼻歌を歌う。それを窘めるように握られた手にまた力がこもる。けれどそこには確実に甘ったるさが、じんわりと含まれていた。




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